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2006.02.03

『戦略的思考の技術』梶井厚志、中公新書

 実用書の性格を持ったビジネス書であるが、この手の本には「これを恋愛に例えれば」といったような実例が頻出し、著者が読者に対して媚びを売る場面が見られる。こういうのを無味無臭の本として、上昇志向の強い大学生なんかが読んだりして、パワーポイントにレーザーポインタを当ててわあわあいう、下卑た人になってくんだろうな。
 悪口はともかく。「ゲーム理論を実践する」という副題のこの著作は、「ゲーム攻略の理論ではない」のだと著者はいう。コミットメント、ログ・イン、シグナリング、スクリーニング、モラル・ハザードといった用語をもって「現実問題がどのように理解できるか」が書かれている。
 モラル・ハザードについては道徳的危機と訳されるがそうではないということも書かれている。自分なりに捉えれば、仕組みの崩壊状態を含めた悪循環全般のこと、あたりに理解したほうがいいのかもしれない。
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2006.01.25

『水族館への招待』鈴木克美、丸善ライブラリー

 著者は、水族館畑のアクアリストである。アクアリストという呼称はどれほど一般的なのかは分からないけれども、透徹した意思を感じます。国勢調査の職業欄の集計担当者、その苦労はいかばかりか。
 水族館の歴史は、ひとつにはそのテクノロジーの発達史として置き換えられる。ガラスの水槽がなかった頃は、魚はカメの上部から見て楽しむものだった。また、水の入れ替えに伴う問題だってある。水が循環式でなかった頃の水族館、なんて思いもしなかった。
 水族館は鑑賞の歴史から始まっている、という歴史を踏まえたうえで、水族館をどういう施設として捉えるかという問題は連綿と続き、いまに至っている。「楽しくて、ためになる」社会教育のための施設であり、動物園や植物園、自然史博物館と並んで考えられている現状を、本書の後半で検討している。
 専門性の問題に立ち入ると、どの施設の目的もそれぞれ、という結論に陥りやすいが、地域センターや、劇場、美術館との関わりという大きな方向性の中で問題を検討してみることも大事だと思う。いずれの施設でも「楽しくて、ためになる」を突き詰めていったときに直面する課題は、似ているように思うから。