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2009.10.28

『チル☆』松井雪子、講談社文庫

 山田詠美、杉浦日向子、内田春菊。出発点は同じながらも、作家活動を深めていったマンガ家たちを、もちろん一括りに出来ようはずもない。いずれも異様な経歴で恐ろしい。ただ、彼女らはいずれも「文章に比べて、マンガ描くのはめんどくさい」といいそうな気がする。杉浦あたりは、明確に発言していた記憶すらある。だけど、松井雪子はメディアの差について、もっと曖昧な感じで挑んでるんじゃないか。イラストがやや先導する本作を読みながら、松井のマンガ作品である、田舎の廃屋で死んでいく老婆の皺のひだひだを何度も数える『マヨネーズ姫』のことを何度も思った。
 childを指すかもしれない少女・チルは、漠然とだけれども、全体を理解している。生きること/死ぬことは、その尊厳や重さを抜きにして考えれば、なんてヘンテコで不思議なことなんだろう。生と死の往来の自由を高らかに宣言する、おたまじゃくしのお化けのような「くねり」の存在が、本当はどんな人のそばにもいる。主人公がいずこへかすり抜け駆け出していく結末は、松井雪子しか描けないはずだ。

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Posted at 05:30 | 講談社文庫 | COM(0) | TB(0) |
2005.12.08

『バブルの復讐』斎藤貴男、講談社文庫

 『精神の瓦礫』改題。これだけで大分すごい。取り上げられているのは、長野オリンピック、湯沢のリゾートマンション、小笠原空港、長銀、企業メセナ、震災、地域振興券、国民総背番号。これだけ項目が並ぶともう観念するしかない。バブルの時代は本当に済まなかったと思う。私が謝ってもしょうがないが。
 バブルが金融・経済の側面を蝕んでいった過程にとどまらず、そのシステムを一緒に作り上げていった人々のモラルをきわめて真っ当に批判している。魚住昭と並んで、いま一番面白いジャーナリストのひとりである。99年の親本刊行後、大きな加筆をしていないので、携帯電話の使用に関する道路交通法改正などには触れられていないなど、やや情報が古いのはいた仕方ない。
 さて、ここで敢えてこの本の不満点を指摘するなら、著者のどこかに潔癖主義な匂いがする点である。たとえば小笠原空港問題の章。斎藤によれば、公約を支持し当選した候補者が変節をしたのに、態度を明らかにしない共産党は「公約違反を追及すべきはずだった」し、同地域の野生生物研究会が日本アムウェイ(本書では名が伏せられている)の助成を受けて「悪びれず」事業を行っている、と書かれている。
 単純な善悪じゃなくて、そんな思いに駆られる著者自身の思い、あるいは思い込みはどこから来ているのか。そこを抉ってほしい。
Posted at 23:22 | 講談社文庫 | COM(0) | TB(0) |
2005.12.02

『花腐し』松浦寿輝、講談社文庫

 腐爛している。「生きているうちに 自分の腐臭を嗅がなければならないとは!」といってたウサギさんとヒト。その主客が転倒するというよりは、どちらも腐って交じりあった歌舞伎町の寓話。
 花冷えの町の隅にある安アパートで繰り返される、脱法ドラッグの密売者とその住民を追い出す地上げ屋の、出口のない繰り言のさまが小説となっている。主人公の男の過去についても一通り明かされるが、詮無い話だ。安アパートの住人の現在の殺伐した暮らしは、無意味に響く。ふたりの交流が何かを生み出すこともない。
 倦む。膿んで、爛れてゆく人々の生活とはまったく関係ないところで、腐り匂い立つ街の香りが記憶に残る。
Posted at 23:01 | 講談社文庫 | COM(0) | TB(0) |
2005.11.23

『優しい人々』坂上弘、講談社文庫

 撞着語法(オクシモロン)という言葉を思い出した。その方面には、まったく明るくないのだが、修辞学で使う専門用語で「熱い氷」「輝く闇」といった言葉が一例になる。辻褄の合わなさを包含した人間像をイメージして、著者はこの書名を付けたのか。つまり見方によっては、優しい人が全然出てこない小説でもあるということだ。
 兄夫婦が交通事故に遭い、兄の介護に一族ごと巻き込まれる主人公の男性。幼少期以後の家族との行き違い、会社での瑣末な人間関係、愛人との密会の日々が、事故をきっかけに、手持ちのゲームカードをすべて開けたようにせまる。
 ストーリーは単純である。主人公の心理描写が延々と続いていくのだ。そういうタイプの作品なのだ。
Posted at 13:44 | 講談社文庫 | COM(0) | TB(0) |
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