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2009.11.19

『わが小林一三』阪田寛夫、河出文庫

 あの「宝塚」の生みの親・小林一三(いちぞう)を描く本書を順番に読んでいくと、なかなか宝塚を作らないことに苛々する。半分ぐらい読み進めると、小林も40代に入り、やっととっかかるといった調子。
 じゃあそれまでは何をしていたかというと、文学青年として不味い小説を書き、そのうち結婚に失敗。三井銀行のサラリーマンとして働くけれど上司と反りが合わず悶々とする。そのうち、梅田・宝塚間という田んぼだらけの土地を走る箕面電車の監査役になる。なったはいいが、競合他社・阪神電車に怯える。しまいには取引先の北浜銀行の疑獄事件に巻き込まれる。焦点が当たりやすい後半生よりも、不遇な中にあっても個人としての経験を着々と積む小林の姿を明らかにする、大部の伝記。
 著者の阪田がどっぷり浸かった阪急文化についての記述も幕間に顔を出す。阪急の「電車に乗る女の人は、身も魂も美しいという信仰がこちらの胸の中に最初からあって、その象徴が宝塚の生徒なのであった」という小学生のころの著者の没入具合たるや。周辺の地理や文化に不案内な私。自分用に、阪急を西武鉄道に置き換えて読んじゃいけないんだろうな。確認するまでもないか。
 宝塚歌劇が誕生してから130年。小林はもちろん、著者の阪田も、著者の友人であり娘の芸名の名付け親だった作家・庄野潤三も、そしてつい最近、著者の娘で宝塚のトップスターだった大浦みずきも鬼籍に入った。一方で、宝塚歌劇、阪急といった看板が、まさに日本の金看板というべき位置にあり続けていることに、あらためて驚いてしまう。
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